【4、未経験の老いることへの対策】














【老いを受け入れる】未経験の「老いる」ことへの対策



想像力をはたらかせる

「そうぞうりょく」という言葉を聞くと、新しいものを生み出すcreationの「創造」と、頭

に思い描くimaginationの「想像」があります。快適な環境をつくるためにはどちらの要素

も必要ですが、まず最初に必要なのは未来をイメージする力imaginationの「想像力」

す。

誰しも年を取り、老いていきます。想像できるでしょうか。これは今までに経験したことが

ない、未知の世界なのです。もちろん年を取った人を見たことがない人はいないでしょう。

 しかし老いを自分で経験しているわけではありません。山に登っている人の映像を見るこ

とと、実際に山に登るのではまったく違うと言えばわかりやすいでしょうか。

つまり未知の経験を頭の中でシミュレーションする、未来の予測をしてみることです。











 なんだか難しそうだと思われるかもしれませんが、手はじめにまず自分がこれから老いる

ということを受け容れることです。これが簡単なことではありません。口ではもう年だと言

いながら、内心はまだまだ若いという気持ちが誰だってあるものです。





 実際に昔の人に比べると今の年寄りは若く、年齢の八掛け、つまり今の70歳は昔の56歳く

らいともいわれています。たしかに栄養、医療、住環境は戦前、戦後に比べてよくなってい

るのでしょう。けれど一つひとつ年を重ねていくのは紛れもない現実です。そんな話はした

くない、考えたくないという人にこそ、ぜひとも考えていただきたいのです。
 
 具体的には、これから膝が痛い、腰が重いなど体の不調が出てきます。そのような老化に

よる不調が自分の身にも起こること、またそのときの備えについて、想像力を使って備え

る、つまりシミュレーションをしていただきたいのです。

これは普段の生活ももちろんですが、次の自然災害や家庭内の事故にも当てはまります。





 ここで80代のある女性の話をご紹介しましょう。一人暮らしのこの方は時々病院に行く

ことはあっても、介護を受けるほどではない、つまり自分のことは自分でできると、暮らし

ておられました。ある日、姪が訪れて昼食をともにしました。食事の後片付けを終えた姪が

ふと見ると、叔母の驚くべき光景を目にしました。

どんなことが起こっていたと思われますか。

あるものの上に乗って、天袋のものを取ろうとしていたのです。

そのあるものとは? ソファです。なーんだと思われますかもしれませんが、まだその先が

あるのです。ソファの座るところ、座面ではありません。ソファのアームと呼ばれる横のひ

じ掛けに乗っていたのです。その光景を見た姪はわが目を疑いました。

 踏み台に乗るならまだしも、ソファのアームとは、信じられない。そこで姪は、叔母を驚

かさないように注意して、下に降りるように言いました。

次に、危ないからアームに乗るのはやめた方がいいと言いました。

すると叔母は、いつもやっているから大丈夫とよと、すまして答えました。

 皆さんはどう思われますか。どう考えても危ないですよね。

 高齢になるとバランス感覚が衰えるので踏み台に乗るのも危ないというのに、よりにも寄

ってソファのひじ掛けです。

しかしこれには無理もない事情もありました。一人暮らしなので、自分で衣替えの入れ替え

もしなければなりません。そしてそのソファは重く、一人では動かせないのです。つまり踏

み台を持ってくるスペースがない。だからソファを利用しようとなったわけです。

姪は言いました。もしソファアから落ちて倒れていても、誰も助けを呼んでくれないのよ。

連絡がないから来てみたら、床で冷たくなっているおばさんを見つけるのはごめんだから。

しかしこの80代の女性は、今までやっていたことだからこれからも大丈夫。そして万が

一、ソファアから落ちたらどうなるかということを考えもしなかったようです。

つまり、シュミレーションができていなかったということです。

危ない、危ないと、頭ごなしに行動を制限するのは考えものですが、どのようなことが起こ

りうるかというシュミレーションをしてみることも安全な暮らしにつながるでしょう。


『心と暮らしを軽くする『老前整理』入門』より










    



     

























                                     
                                           
                                                                                    


   

                                                            



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