家族の遺品整理


遺品整理とは? 「もの」の問題

 遺品整理というと、どのような光景が思い浮かびますか。ひとことで言えば、遺品整理は親や家族が亡くなった後に、故人の荷物の整理をすることです。

 いつしなければならないという時期に決まりはありませんが、いつまでもそのままで放置するわけにもいかないでしょう。そして遺品整理には「もの」の整理の問題と「心」の整理があります。 まず「もの」の整理について見ていきましょう。


「もの」の整理

 老前整理を始める理由に、親の遺品整理をした経験から、自分の子どもにこのような思いをさせたくないという人も少なくありません。なぜ遺品整理がそれほど大変なのかといえば、まず膨大なものの量です。押入れやタンスの中に入っているものを全部出してみると、トラック数トン分はあたりまえと言っても過言ではありません。ここでは、親の遺品整理の問題と実行法についてです。

 この何トン分もの遺品をすべて見ていくにはどれほどの時間とエネルギーが必要でしょう。

 なぜ細かく見なければいけないかというと、どこに何が紛れているかわからないからで、一番多いのは現金です。へそくりや何かのお金を封筒に入れてどこかにしまいこんでいたり、貴重品や通帳、印鑑などもどこにあるかわからない場合がほとんどです。そしてこの作業は、親のプライバシーを侵すことになり、知りたくなかった

 葬儀のようにある程度、儀式としての段取りが決まっていれば、それにしたがって進めていけるのかもしれませんが、決まりのない遺品整理はそう簡単ではありません。

 いざ自分の身に降りかかってくると、遺品整理がどれほど大変で心身を消耗させるものであるかに驚かれると思います。老前整理をする動機の一つに、親の遺品整理を経験し、このようなつらい思いを子どもたちにさせたくないからということがあるほどです。

 最近では遺品整理の仕事がテレビのドラマになるなど注目が集まっているのは、それだけ身近で深刻な問題だからでしょう。人生五〇年といわれ、ものが少なく貧しい時代にはここまでの苦労はなかったと思います。

 しかし平均寿命が伸びて豊かになった今、家の中にものがどれだけあるかを考えていただくとおわかりでしょう。もし現金や貴金属など貴重なもの、高価なものが多く家の中に眠っていれば宝探しの感覚でわくわくするかもしれませんが、多くの場合は「どうしてこんなものを取っておいたのか」と疑問に思うものが多いのです。

 「もったいな_い」とものを大切にすることを信条にして育った世代には、「捨てる」ということができず、多くのものに囲まれてしまい今に至るのです。

 その上、親子といえども予想もしていなかったものや、知りたくないことまで知らされることもあります。

 それだけならまだしも、兄弟や親せきなどがからむ遺産の問題があります。

 処分の方法について意見が合わなかったり、勝手に始末したと責められたりすることもあるでしょう。遺言があったり生前にきちんと相続の手配がされている場合は問題ないでしょうが、多くの方はそこまで考えていませんので、後々家族、親族が揉めることも少なくありません。

 亡くなった家族への思いで辛くて片付けられない場合、親族の問題、誰が片付けるのか、このように遺品整理はさまざまな問題があり、なかなか進まないのです。

では、次に具体的な話に移りましょう。




持ち家か賃貸か

 遺品整理においては持ち家か賃貸かで対応が分かれます。一人暮らしの親の家が賃貸ならば大変です。

 それは家主からなるべく早く明け渡してほしいといわれることがあるからです。貸す側にすれば、人が住まない空き家は防犯面からもなるべく早く片づけて明け渡してほしいものです。一週間あるいは一か月と期限を切られる場合もあります。また家賃の支払いの問題もあり、賃貸の場合は待ったなしです。悲しんでいる暇はありません、とにかく早く片づけなければならないのです。

 親が亡くなれば通夜に葬儀、四十九日とあわただしい日々を送る子どもにすれば、それに加えて家の片づけがのしかかってくることになります。

 もし親の家から遠い場所に住んでいれば仕事を休んだり、家を空けて来なくてはなりません。それも一日や二日では到底片づきません。

 遺品整理の業者に依頼すると費用もばかになりません。また業者に頼んで片づけば万々歳と思う人はすっきりしますが、親の荷物を人任せにしてしまったと親不孝を気に病むもいます。

 介護もそうですが残された家族で、相手のことを想い、一所懸命しようとした人ほど、「これで良かったのか」という思いが残るのです。



親子の住まいの距離の違い

 親の遺品整理をする場合、親子がどこに住んでいるか、その距離によって次の三つのパターンが考えられます。

@親と同居していた

  ア、子どもの頃からで、成人しても同居

  イ、親が高齢になったので同居

A近所に住んでいた

B遠方(日帰りは無理)

そこでそれぞれのケースについて、どのようなことが起こりうるかをみていきましょう。

@−ア、 子どものころから親とずっと同居していた場合

 いっしょに暮らしていたから親のことを何でもわかっていると思われるかもしれませんが、案外、知らないことも多いものです。お互いに言わなくてもわかっていると思うことや、逆にお金のことなど言いたくないという場合もあります。またいっしょに住んでいるからといっても、お互いのプライバシーを尊重していれば、押入れやタンスの中のものまで見ることはないでしょう。

 距離が近すぎて、かえって言わないこともある。親子の関係、つまり会話やコミュニケーションの有無にもよるでしょう。

 親子の関係がうまくいっていた場合は、つらくてなかなか片づけられない場合もあるかもしれません。またこの場合、先に亡くなった親の遺品もそのままになっている場合が多いので、子どもにすれば両親、つまり二人分の遺品を片付けることになります。心の整理をする時間も必要になるでしょう。



@ーイ、 親が高齢になったので同居

 親が高齢のために同居をする場合は、つまり子どもが実家に帰るときと、子どものもとへ親が越してくるケースがあります。

 田舎の大きな家に子どもが戻ると、まずものの多さに驚くでしょう。

 納屋や納戸、蔵があるという家もありますし、そこには親どころか先祖代々のものが眠っている。また高齢の親はそのような代々のものを手放してはご先祖様に申し訳ないと思っているので、手をつけていない。かといって高齢で自分の身の回りのことも十分にできなくなった親に片づけろとも言えないので、結局親が亡くなった後に片づけることになります。

 生前にそのようなご先祖のものなどについて話をしていれば対処もできますが、話ができていなければ一から片づけることになります。

 子どものもとへ親が引っ越してくる場合は着替えなど身の回りのものだけでしょう。つまり田舎の家はそのまま残っています。そして、子どものところで親が亡くなってから田舎の家をどうしようかということになります。



A 近所に住んでいた( もしくは日帰りできる距離)

 同居していた場合と違い、近所に住んでいると家の状況もわかりつつ、ある程度客観的にみられますので、精神的には楽かもしれません。そうすると何が問題かということがわかりやすいのです。

 また片づけに通うのも近ければ往復の時間がそれほどかからず、遠距離で通うのとは違うので時間も取りやすく、急がなければ自分たちのペースで進めることができます。それに近所に住んでいればゴミの分別や処分方法もわかっているのでやりやすいかもしれません。無理をせず計画的に進めるのがよいでしょう。



B 遠方( 日帰りは無理)

 遠方に住んでいる場合はいちばん頭が痛いと思います。まず、子どもたちの多くは都会で仕事を抱えているので、片づけに帰る時間がとれない。その上、長期間の休みが取れない。兄弟でお互いの時間調整ができないなどなど、遺品整理のハードルが非常に高くなります

 また、たとえ少しでも片づけようと思っても、長年その土地を離れていると、ゴミをどう分別してどこに出せばいいのかわからない。もしくはゴミを出せる日が限られているので出せないなど、さまざまな予期せぬ問題が出てきます。

 ましてや海外に住んでいるとなれば、お手上げです。時間が取れない、片づけに帰れないとなると、遺品整理は業者に依頼することになります。

 この場合も、どのようにしてもらえるのかが気になるところです。貴重品が出てきたらどうするか、思い出の品をどうするか、指示もしくは打ち合わせをしておかないと、後からでは取り返しがつきません。

 もちろん遠方ですから、メールや電話のやり取りで進めることになります。信頼できる業者かどうかの確認も必要で、金額も気になります。相場がわかりにくいし、高くても迷うし、安すぎても不安になります。

 問題はまだ続きます。ひとり暮らしの親が亡くなった場合は、その家をどうするかも決めなければなりません。

 賃貸なら部屋を空ければすみますが、持ち家、それも何代も続く家となるとどうでしょう。そのまま放置するのか、今後、誰かが住むのか。空き家にしておけるのか。

 もし空き家にしておくとすると庭の雑草は伸びるし、部屋に風を通すことも必要になります。家の管理は誰がするのか、誰が責任を持つのか、あるいは売却をするのか。とりあえず様子をみるとしたら水道や電気はどうするのか、名義は変更するのか、料金の引き落とし口座はどうするか。管理や手続き、防犯の問題もあるのです。



整理を実行するにあたり

どのような流れになるか考えてみましょう。

 まず家族、親族など必要な了解をとる。これは後々揉めないための予防策です。また形見分けなどは事前にすませておいた方がよいでしょう。そうでないと、後から、泥大島のきものがほしかったのにと言われても取り返しつきませんし、故人と生前に蔵の中の掛け軸をもらう約束をしていたといわれても確かめようがありません。このようなことで親せきづきあいが途絶えてしまった例もあります。

 また隣近所の方にも人が出入りするとご挨拶をしておいた方が良い場合があります。

 そうでないと隣の空き家に見知らぬ人が出入りしていると、警察に通報される可能性もあるからです。

 またゴミの処分法も調べておいた方がよいでしょう。その場合に、ゴミを運ぶ車の手配も必要ですし、家の前に車を置けるか、狭いところでトラックなどの大きな車が入らない場合もあります。つまり遺品を整理しながら、どのように運び出すか、どこへ持って行くかまで考えないと片付かないのです。



誰がするか

 一人で行うよりは、誰かに手伝ってもらうことが望ましく、その理由が三つあります。

 まず最初の理由は単純です。一人よりは二人か三人の方が効率的だからです。重い家具や電気製品を運ぶなど一人では難しいこともあります。タンスの裏など家具を動かしてみる必要も出てきます。ただあまり人数が多すぎると、ものは片付きますが、それぞれが勝手なことを言い出すと、まとまりが付かなくなる可能性もあります。

 また、残すか捨てるかの判断が一人ではつかないこともあるからです。

 これに加えてもう一つ大きな理由は、一人で片づけていると思い出の品を見て気が滅入り、精神的につらくなることがあるからです。

 もし一人で片づけるならば、現実は理想通りにはいかないので、長時間がんばりすぎないことです。

 この時間は集中してやろうと、時間を決めたほうが、能率が上がります。

 また予想よりも時間がかかることを覚悟しておいたほうがよいでしょう。なぜなら、引っ越しならばものを箱に詰めて運び、転居先で荷物を出し、並べ、納めるという決まりきった作業ですが、遺品整理は一人ひとりのケースによりまったく違う作業となるからです

 最後の理由は兄弟姉妹など複数ですれば話ができるからです。といっても世間話ではありません。故人のものを片づけながら、思い出を語るのです。

 通夜や葬儀では話題にのぼらなかったようなこと、些細なこと、忘れていたことなどです。自分の知らない話を聞けるかもしれません。兄弟といえども、知らないこともたくさんあります。古い写真が出てくることもあります。

 それを見て、反抗期の弟を両親はどのように思っていたか、兄が教えてくれることもあるでしょう。姉も知っていると思っていたことが、妹しか知らないことだったり、このような機会でないと話せないことやわからないこともあるのです。古びたお菓子の箱の中から、自分たちが子どもの頃に親にあてて書いた手紙が出てきたらどう感じるでしょう。そういえば…という話は、たぶんこのときにしかできないのです。

この機会を逃さないでください



次に具体的な手順です。

確認する

 遺品整理の順番は、はじめに重要な書類や貴重品がありそうなところをみます。これは金庫や手文庫などすぐにわかりそうに思われますが、長年離れて暮らしているとわからないことも多いものです。また預金通帳、印鑑なども確認しておきます。

 大量のごみの処分については、すべて業者に依頼するか、自分たちでできるだけ処分して大きなものや特殊なもののみ業者に依頼するかを決めましょう。その費用は誰が払うのかも予め決めておきます。ごみを入れる袋(大量に必要)もしくはダンボールの箱などは、事前に用意しておきます。地域により既定の有料の袋でないとごみを引き取ってもらえない場合もありますので、確認が必要です。



一部屋ずつ整理する

 座卓やこたつなど床に置かれたものを他の部屋に運び出し、ものを広げるスペースを作ります。床にシートなどを敷いて、ここでタンスや茶棚、押入れなどのものを出し、仕分けをしていきます。シートを敷くのは、ほこりや髪の毛、虫、ゴキブリの死骸などいろいろなものがいっしょについてくるので、後の掃除をラクにするためです。

 次はタンスなどから出したものを「使う」「着る」「捨てる」「保留」と分けていき、不要なものはそのままごみ袋や箱に入れていきます。

 仕分けをするときには、衣類なら背広や洋服のポケットなどに何かものが残っていないかを確認します。書類なら封筒の中身まで見ましょう。

 整理タンスの中から封筒が出てきたり、食器棚からネックレスが出てくることもありますので、しっかり見ていく必要があります。そうした封筒に現金を入れたまま忘れている場合も多々あります。

 あるお宅では表に鉛筆で「へそくり」と書かれた一見くたびれた封筒から六〇万円の現金が出てきたそうです。家族の方はへそくりと書いてなければ、そのまま捨てていただろうとのことでした。額の裏なども念のために確認してください。

 タンスの中身を全部出したら、裏に何か落ちていないか、引き出しの裏にへそくりの封筒を張り付けていないか、一つひとつ確認します。

 古いタンスや鏡台の引き出しに隠れた引き出し(盗難予防もしくはへそくり用)がある場合もありますので、そこに貴金属やお金をしまいこんでいないか見ておく必要があります。

 このような隠し引き出しやスペースを知らない男性は多いでしょう。また子どもでも知らない場合の方が多いと思いますが、女性が見られたくないものを隠す場所として昔から工夫がされていたようです。



手紙や日記など個人的なもの、価値のわからないもの

 片づけていればたくさんの手紙や日記が出てくる場合もあります。そうした個人的なものをどうするのか迷う人も多いようです。

 読みたいけれど、親といえども故人のプライバシーを侵すことはしたくない。たしかにそういった面もありますが、あまり神経質にならずにざっと目を通されてもよいと思います。

 昔なら古い手紙類はたき火で焼いたのでしょうが、現在ではできませんので、個人情報が含まれているものはシュレッダーにかけるのが得策かもしれません。またゆっくり読みたいと思うようならば、別に保管しておきましょう。

 趣味のものや骨とう品など、自分たちでは価値のわからないものは専門家に尋ねるのがよいでしょう。また処分するならば、引き取り手がないかを聞いてみるとよいでしょう。



ごみの処分

 これもみなさんが頭を悩ます問題です。燃えるごみ、燃えないごみ、粗大ごみ、引き取ってもらえる家電製品とそうでないもの。分別の仕方は地域によって違います。この分別も面倒で時間がかかります。

 台所用品等、これはガラス、プラゴミ、金属、このスプーンは柄の部分が木製だし、どっちに入れればいいのだろうかと、迷うので時間がかかるのです。

 またゴミとして出すには忍びないと思われるものもあります。ご相談が多いのは写真やアルバム、人形の類です。これらは、納めさせてもらえる近くのお寺などにご相談されることをお勧めしています。

 時間もかかり体力もいることですが、一つひとつのものに向き合う作業が故人と向き合うことになります。二度と会えないことを改めて理解し、別れを告げる作業が遺品整理なのです。

『心と暮らしを軽くする『老前整理』入門』より


問題別

・なぜ片づけられなかったか⇒理由

・50歳からの暮らしを創造する ⇒老前整理のナッジA(自分史年表)

・家族のコミュニケーション⇒老前整理だからできる

・このままではものは増えるばかり⇒なぜ老前なのか

・未経験の老いることへの対策⇒老いを受け入れる

・「いつかやろう」を解決する⇒老前整理のナッジ@(カレンダー)

・安全について⇒暮らしと安全

・災害について⇒災害への備え

・ひとり暮らしになったら⇒老前整理をするために

・子どもたちに託すこと⇒仏壇や墓のこと

・子どものいないご夫婦⇒2人で今後の計画を立てる

・高齢の親の家の片付け⇒ゴミ屋敷にならないか心配!

・親の介護中⇒介護をしている人ほど、自分を大切にしよう!

家族の遺品整理は一筋縄ではいかない「もの」の整理「心」の整理

・空家で困っている⇒実例紹介

・体調がわるいとき⇒焦らない