老前整理のナッジ4

【決断するために視点を変える


「老前整理を簡単にする方法はありませんか」

 この質問に対して一番簡単なのは引っ越すことですと答えています。引っ越しをするときにいらないものまで運送代を払って持っていこうとは思わないでしょう。転勤族は比較的ものが少ないといわれるのは転勤のたびに不要なものを処分していくからです。

こうして無理やり環境を変えてしまうのです。その時に、日常生活に最低限必要なものだけ持って行きます。数か月暮らすと、多くのものは必要なかったということがわかるはずです。次の問題は元の家をどうするかですね。売るにしても貸すにしても、中の荷物をどうにかしなければならない。

 ここでも簡単なのは、業者に不用品として全部持って行って処分してもらうことです。費用はかかりますがすぐ片づきます。

 いやいや、自分のものをそのようにゴミにしてしまうのは忍びないという場合は、ひとつひとつ仕分けをしていくことになります。本当に必要なもの、貴重品などは持ち出していますから、多くは不用品です。またリサイクルできるものや子どもに譲るもの個人的なものなど分けていきます。自分ですればお金はかかりませんが、時間と労力がかかります。

なぜ視点を変えるのか

 何十年と暮らしてきた家と暮らし方、習慣はそう簡単には変えられません。今までの暮らしの上に、たくさんのものの蓄積があるのです。そしてそれらは、いつか使う、まだ使えるということで、押し入れや納戸に詰め込まれています。

 父親が大切にしていた掛け軸もあれば、キツネの襟巻もあるでしょう。こわれた扇風機やストーブもあるかもしれません。他人から見ればどうして捨てないの? というものもたくさんあります。

 しかし自分のものとなれば、高かった、あまり使っていない、まだ使える、思い出があるという理由で手放せないのです。他人から見れば「どうして?」というものも、自分のものであれば、そのものにまつわる思い出が手放せないものなのです。

 ここには財産的な価値も含まれます。今は使わないものでも、お金を出して買った、もしくは贈答品にしてもお金を出した人がいるからです。それを手放すということはお金を失うことでリスクだという考え方と、ものを抱え込んで生活が不便になったり安全を脅かされるリスクとどちらが大きいかを考えてみてください。

 今までの考え方、暮らし方では行動に移すのが難しい。頭では分かっているけれど、行動できないのです。

 かといって、他人に干渉されたくないのも正直なところでしょう。自分のものは自分で納得の上、仕分けをして処分したいのが人情です。反対にそもそも、そんなことをする必要があるのかという方もあるでしょう。

 長年培われた常識やものの見方を変えるには大きな力が要ります。「もったいない」や「まだ使える」で溜め込んでいるものを手放していくには、この大きな力が必要です。動機と言い換えてもよいでしょう。自分のやりたいこと、好きなことなら多少の無理をしてでも行動しますが、やりたくないこと、嫌いなことはできるだけ避ける、もしくは先送りにしようとします。これが「いつか、そのうち」なのです。

 ここで基本にもどって、なぜ老前整理をするのか皆さんに考えていただきましょう。


問い
なぜ片づけないといけないのでしょう
解決するためにはどうすればよいですか
解決するためにはどうすればよいですか
片づけないと、どうなりますか


@の「なぜ」についてですが、自分では今のままで構わないと思っているのに、家族がうるさく言う場合もあるかもしれません。家族からのプレッシャーに対して自分がどう思うかでもかまいませんし、うるさくてかなわないでもかまいません。

 この問題にどう対処したいかでもよいですし、逆になぜ家族がそう思うのか徹底的に聞いてみることも新しい展開につながりそうです。

A次は方法ですね、どのように進めて解決するか、行動と計画を立てることになります。

 また頭の整理や心の整理も必要になるかもしれません。両親の遺品が残っている場合や、連れ合いが亡くなったという場合も、気持ちの整理ができないと手を付けられません。

 片付けられない言い訳でなく、素直な気持ちでできない時はできなくてもいい、罪悪感を覚えることはないと知っておいてください。これだけで気持ちが軽くなる方もあるはずです。

Bここでは想像力を使うことになります。予想と現実が違う場合は往々にしてありますが、まずは予測をしてみましょう。

 何かメリットがなければ、なかなか行動にはつながりません。これは自分にとってどういう意味があるのかを考えることにもなるでしょう。

Cこれも考えておく必要があります、多くの場合、やりたくない、面倒だ、このままでも大丈夫だと思うから実行できないのです。ここで本当にこのままでいいのかとシュミレーションをすることで、未来の予測が変わるかもしれません。

 また本当にやりたくないのであれば、どうなるかという結果も受け入れる覚悟が必要になります。

 この四段階のステップで、具体的な問題や自分がどうしたいかが明確になったでしょうか。そこでもう一歩進んで視点を変えるというのはどういうことでしょうか。

視点を変える その1

 老前整理の講演で毎回参加された方にするお訊ねします。

「ラクダに乗って砂漠で旅をするとしたら、何を持って行きますか」

 リゾート地でも温泉でもない、砂漠という厳しい環境で何が必要かを考えていただくのです。答えは、水、食料、帽子、防寒具、着替えなど最低限生活するために必要なものがあげられます。ここにブランドのバッグやゴルフ用品を持って行こうと思う人はいないようです。

 なぜこのような質問をするかと言えば、いざという時、非常時に何を持って行くかを考えるためです。ラクダで旅をするといっても、持って行ける荷物は限られています。ここでまず生きていくために必要なのは何かを考えます。

 多くのものをどう処分するかでなく、逆の、まず必要なものは何かから始めるのです。

視点を変える その2

 次のステップに進みましょう。

ものと自分の関係を考え直す5W1H

 今までと同じように、ものを前にしてこれはまだ「使える」、「いつか使うかも」と迷い、結局元の場所にしまいこんでいると、ものは減りません。同じことの繰り返しです。

そこで次の5W1Hを使って自分に問いかけて、見直してみましょう。

5W!H
問いかけ
What これは、何? 洋服? 時計? 実際に使っている?
Why なぜ、取っているの? 便利? すてきに見える?どうしてこれが必
要?
When

いつ、必要なの? 着るの? 使うの? いつかはいつ?

Where どこで、使うの? 家で? パーティーで?
Who 誰が? 私が? 家族が?
How  much いくらしたの? 高かった? 安かった? 今、価値はあるの?


次に一つ一つのものについて、具体的な視点に落とし込んでいきましょう。

たとえば、一〇年前に買ったKさんのコートを例にします。

5W!H
 自分で答えていく
What コートだけれど、実際に着ているかといえばここ一〇年着ていない
Why なぜ取っているかといえば高かったから。もったいないし、まだ着られる
と思う
When いつ着るかといっても、いいものだけど、重いしデザインも古くさい。年の
せいかコートや着るものは軽い方が動きやすく楽に感じるようになった
ので、着ていない
Where 近所の買物にはダウンジャケットのほうが温かい
Who 私だけど
How  much 当時はウン十万したけれど、今、リサイクルに出しても値段は付かない
のが悔しい


 こうして段階的に、見ていくとどうでしょう。このコートを着ることはあると思いますか。たぶん着ませんね。

5W1Hはモノと自分との関係を考え直すきっかけになります。

 『心と暮らしを軽くする「老前整理」入門』 『老前整理』 『老前整理実践ノート』より




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