【15 、家族の遺品整理】





一筋縄ではいかない 遺品整理とは? 「心」の問題





遺品整理というと、どのような光景が思い浮かびますか。ひとことで言えば、遺品整理は親

や家族が亡くなった後に、故人の荷物の整理をすることです。

 いつしなければならないという時期に決まりはありませんが、いつまでもそのままで放置

するわけにもいかないでしょう。そして遺品整理には「もの」の整理の問題(前頁)と「心」

の整理があります。 





心の整理


 遺品整理も老前整理と同様、ものの整理をするためには心の整理が必要です。遺品整理の

場合の心の整理というのは、いやでも愛する人を失った悲しみと向き合わなければなりませ

ん。

 多くの人は、実際に愛する人を失うまで、その別れの悲しみがどのようなものか、想像す

るのも難しいでしょう。また亡くなった人との関係、どれくらい親しかったのか、亡くなっ

た人が人生のどのような時期だったか、どのような状況で最期を迎えたのか、によっても悲

しみの色合いがそれぞれ違います。

 このように「遺品整理」ということばでひとくくりにはできません。もし悲しみで遺品整

理に手がつけられない人がいれば、そっと見守ってあげてください。今できるのはそれだけ

でしょう。

 悲嘆を癒す=グリーフケアと呼ばれ、こころの問題に向き合うことです。

キャサリン・サンダース『家族を亡くしたあなたに』(ちくま文庫2012年)で、家族を失っ

た悲しみというものがどういうプロセスを経て再生に向かうのかについて詳しく解説してい

ました。ここのサンダースのいう「悲嘆の段階的な変化」を簡単に紹介します。





・家族や愛する人を失い「ショック」を受ける。

「喪失を認識」することで余計悲しみが深くなる。エネルギーを使い果たすと、絶望に似

  た体験をする。

・自分の殻に「ひきこもり」落ち込む。次に回復しながら未来や希望について考えられるよ

  うになる

・「癒し」の時期。

「再生」で心も安定し、目が外に向くようになる。





 このような変化を体験しながら、自分の暮らしを少しずつ取り戻していきます。しかし

それぞれの段階で何年かかるか、また元に戻ったり、どのような事態が起こるかは一概に言

えません

 これは先にも書いたように、亡くなった人との関係や悲しみを受け止める人の性格や環境

それぞれの事情にもよるでしょう。

 ここで遺品整理の話に戻すと、遺族がこの悲嘆のプロセスのどの段階かにより、対処法も

考えなければならないということです。

 故人の持ち物がそのまま残されていることで、絆が続くと思う場合もありますし、慰めを

感じる場合もあります。だからこそ心の整理がつかなければ手がつけられないのです。

 ここでは人生の伴侶である夫や妻、親、子ども、子に先立たれた親、おじ、おばの場合の

心の整理と対処の仕方について考えてみたいと思います。

 ここで夫や妻、子ども、親と分けて書いているのは、それぞれの立場の違いがあり、ひと

くくりで遺品整理と片づ付けられないからです。

 悲しみの受け止め方、回復の時期は人により違い、月日がたっても癒されない傷、忘れら

れないこともあるということをたくさんの方から教えていただきました。

また一人ひとり悲しみの受け止め方、悲しみ方も違うことを知りました。

                                                          

                                                                                              


 伴侶―妻に先立たれた夫の場合




 妻に対する依存度は人により違うでしょうが、役割分担はあったでしょう。そのパートナ

ーを失うことは別離の悲しみだけでなく、生活を送る上で依存していた部分を失うことでも

あります。

 たとえば家事を妻に任せていた夫は、料理、掃除や洗濯をすべて自分でしなければならな

いのです。包丁を握ったこともない、洗濯機の使い方もわからないという現実が降りかかっ

てきます。

 喪失の悲しみのただ中にありストレスを抱えた夫が新しいことを覚えねばならず、そのた

めに怒り、焦り、いらだつこともあるでしょう。たぶん「途方に暮れる」ということばが一

番適当かもしれません。伴侶を失うダメージは女性よりも男性の方が大きいようです。





 わたしの経験からすれば、多くの男性は平均寿命から考えても、自分が妻より先におさら

ばすると考えておられるようです。だから後のことは妻任せという風にも見えます。保険や

相続などお金のことは考えていても、自分の「もの」にまでは考えが及ばないのも事実でし

ょう。

 つまり多くの夫は、妻を見送ることを想定していないのです。もちろん妻が病に倒れたり

事故にでも遭えば考えも変わるでしょうが、日常生活に問題がなければ、妻は自分のそばに

いるのが当然のようです。

 その妻が自分より先に旅立つと、夫にとっては予想もしていなかったことが次々起こり、

「途方に暮れる」のです。

 この状態で妻の遺品整理を勧めてもうまくいきません。茫然自失の男性からの妻の遺品整

理について「何をどうすればよいかわからない」という相談もありました。またこれから

先、一人暮らしで自立して生活できるのかという不安にさいなまれ、目の前のことで精一杯

で気が回らないのかもしれません。





 妻の七回忌や十三回忌でようやく妻の遺品整理をしようという気になったという男性も少

なくありません。

 気持ちの整理、心の整理がつかないと動けないのです。また、妻の持ちものに触るのがつ

らい場合や、衣類や生活用品をどう扱ってよいのかわからず、処分するのがよいのかどうか

さえ判断できないこともあります。どこに何が入っているのかもわからない。何とかしなけ

ればと思うけれど、男のプライドなのか、妻のものを人に任せたくないのか、誰かに助けを

乞うこともできない人が多いのです。

 こういう場合は、家族、親族の中の女性、娘や姉妹などに手伝ってもらうことを勧めてい

ます。そうでないといつまでたっても遺品は手つかずのままです。

「男やもめに蛆が湧き、女やもめに花が咲く」いいますが、男性の中には、家事能力が低い

にもかかわらず援助を求められない方が少なくありません。自分自身の身の回りのことも十

分にできなければ、ゴミ屋敷になってしまう危険性だってあるのです。

そうなる前に、まずは現状を見なおしてみることが大切でしょう。





伴侶―夫に先立たれた妻の場合

 平均寿命から考えても女性の方が長生きということがわかっていますから、女性はある程

度、夫を見送ることを想定しているようです。

 ただ高齢の夫が先に逝く場合と、夫が若くして逝く場合では、受け止め方に違いが出るで

しょう。

 夫が若くして旅立つ場合、残された家族の経済的な問題や子育てなど、妻が一人で抱える

ことになりますので、遺品整理どころではないかもしれません。

 しかし家賃の問題で引っ越しを余儀なくされれば夫の遺品整理は喫緊の課題になるでしょ

う。悲しんだり心の整理の時間もなく、荷物を減らすことを強いられ、辛い思いをすること

もあるかもしれません。

 夫を失った妻の場合、葬儀や四十九日の法要が終わればすぐに遺品整理を始める場合と、

悲しみで何年も手がつけられない場合と、大きく二つに分かれる傾向にあるようです。

 これは生前の夫婦の関係によるものなのかもしれません。そのへんも男女差があります

が、手につかずそのまま放置しておくと、遺品整理はすべて子どもが担うことになるのは、

妻でも夫でもどちらが先に逝っても同じです。


                                         

 
                          
子どもに先立たれた場合の親



 ここでは子どもに先立たれた親の場合です。親が亡くなるというのは、悲しいことであっ

ても、順番からいけば仕方ないことでもあります。

 しかし逆縁の場合、親の悲しみは計り知れません。病であれ、事故であれ、自分が代わり

になれたらよかったと思う方も多いのではないでしょうか。そしてその悲しみはたぶん一生

癒えないでしょう。

 よその子は年を重ねていくのにと、子どもの同級生を見ては涙を流し、死んだ子の年を数

え、あんなこともできた、こんなこともできたと思うでしょう。

 またこの場合、子どもが遺したものは親の生きるよすがになる場合もあります。遺品を整

理する気になれない親がほとんどでしょう。無理をせず、本人の意思に任せるのが最善かと

思います。





おじ、おばの遺品整理

 ひとり暮らしが増えているので、甥や姪がおじやおばの遺品整理を任されることも少なく

ありません。

 遺品整理は手間がかかり、ものを処分するのにもお金もかかり、負担も大きいのできれば

やりたくないことです。自分でできずに業者に頼めばそれ以上にお金がかかります。

 この場合、生前のつき合いの深さで甥や姪の気持ちも違うでしょう。子どもの頃からか

わいがってくれた人なら恩返しのつもりでしようと思うかもしれません。しかし、ほとんど

交流のない人だと、どうして自分がしなければいけないのか、となるでしょう。

 また親の家とは勝手が違い、何十年も会っていなければ、赤の他人と変わらず、家にも

ものにも愛着を感じることはないでしょう。


『老前整理の極意』より                                                






     



















    

            




   

             
                                                                              


                                                                   





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